緊急投稿

ムンバイの同時テロはアルカイダの戦争である!

JETRO横浜貿易センター所長(同前ニューデリー所長)

 宮原 豊 (9組)

 

ムンバイは本当に酷いことになってしまいました。最終的には、200人近い人が巻き添えになって

死亡(外国人も20人以上含まれる)したという。出張中の日本人ビジネスマンが襲撃に巻き込まれ

亡くなられたのはショックでした。心からお悔やみ申し上げます。

 

今回の事件は、テロが何時、何処であっても驚かないインド人にとってもショックだったようです。

当初は背景などよく分らないから、コメントのしようもない状態のようです。

インドでは、いろいろな事件があることは織り込み済みで、それにもかかわらずインド経済は

発展し続けると私自身も言ってきたし、今もそう信じています。

今後、どのような広がりをもつのか、さすがのインド人にも想像できないようです。

それほど衝撃的だっただけに、沢山の仮説が成り立ちます。

 

マンモハンシン首相は「外国勢力と繋がるグループの仕業である」といち早く声明を出しましたが、

隣国パキスタンから侵入したテロリストの犯罪と考えているようです。

インドの統治者として、国内のヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が激化するような事態は避けた

いと思っているはずです。歴史的に、インド国内でヒンズーとイスラムは何か事件が起こると、報復が

報復を呼び、大暴動に発展するという経験をしてきました。

例えば、2002年のグジャラート暴動、1992年のUP州アヨーディア事件など、3千人とも5千人とも

いわれる死亡者をだすような大暴動に発展する虞がなくはないです。

 

今回の事件は、シン首相が言うように、パキスタンを経由してインドに入国した国際テロリストの起

こした事件と考えられています。ムシャラフ前大統領を継いだパキスタン政府は弱体化しており、治安

のコントロールができていないために、イスラム過激派が野放しになっているのではないかと疑って

います。新大統領は、軍に対する影響力が皆無なので、インドとパキスタンの関係を不安定化するこ

とをも目論むパキスタン国内の過激派グループにとっては好都合です。

イスラム教の過激派と、それを支援するパキスタン軍の一部とアウトロー・グループが混在してい

る所ですから、いつこの辺りで問題が起こっても不思議ではない状態にありました。

 

2,3年前までは、インドにおけるテロ事件の殆どがパキスタンから侵入する過激派が起こして

いましたが、最近はインド国産の(侵入テロリストによらない)テロ事件が多発していたといわれて

きました。だから、今回、犯行声明を出した、デカン・ムジャヒディンの名前は聞いたことがないもの

ですが、拘束されているインド人のイスラム戦士(ムジャヒディン)の釈放を要求しているというのは、

尤もらしく聞こえます。しかし、今回はインド国内のイスラム教徒の不満をアルカイダに利用されたよ

うに思います。利用されているだけですから、インド人とインド人が殺し合いをするような、ヒンズーと

イスラムの暴動に発展しないことを祈っています。

 

最近は、パキスタン政府の統治能力は相当に低下しているので、米軍はアフガン国境の山岳地

帯掃討作戦をパキスタン領内に越境して実行しています。

パキスタンの大統領は、自分たちの無策を棚に上げて体面だけのために米国を非難、米国は

それを聞いたふりをして、実際は無視して相変わらず空爆を繰り返しているようです。

今回のテロ事件は、その延長線上にあるのではないでしょうか。つまり、国際テロリスト集団アル

カイダと、米国・同盟国の戦いがインド国内で展開されているという見方です。米国の政権交代の

時期を狙い、イラクよりアフガンと言っているオバマへの牽制の意味もあると思います。

 

最新情報では、犯行声明のメールはダミーで、デカン・ムジャヒディンは存在もしない、嘘だったと

いうことが判り、実際にはこの攻撃は、パキスタンをベースとしている、LashkarETaibaという

アルカイダ同様のテログループが企てたものとみられています。

多くの船を乗り換えながら、カラチから海でムンバイにやってきたようです。

また、更に、ジハード(イスラム聖戦)式の攻撃(爆弾を投げて逃げたり、自爆する)ではなく、まる

で本格的な戦争のようです。長時間に亘って人質をとって、インド経済の中心となるムンバイの高級

ホテルに滞在する欧米人をターゲットにし、貿易・経済に大きな影響を与えると見込まれるような企て

であります。

 

さて問題はこれからです。最近5年くらいかけて築いてきたインドの安定的な外交、経済政策が台

無しになる可能性もあります。あるいは向上しつつあった産業基盤の整備などに関し、少し足踏みす

ることになるかもしれません。

今回の事件のショックは大きく、外国資本の進出は暫く停滞すると思われますが、それが犯行グ

ループの狙いです。そして、インドとパキスタンの切り離しこそが彼らの狙いです。

その狙い通りになってしまうのは、なんともやりきれない気持ちですが、パキスタンの国内事情から

いえば、折角良くなってきたインドとパキスタンとの関係が、再び悪化する可能性が高いです。

米国の9.11以降、世界各国で起こっている経済都市のテロ事件によって、先進国と同盟国間の協

力や支援関係はより深まっています。

そういう中で、混沌としているパキスタンを国際テロと戦う最前線として、同盟国側に引きとどめる

努力をしていかなければなりません。国際社会はパキスタンと断交することなく、話し合いによって解

決していかなければならないと思います。

インドも今回の世界的な経済危機のなかでは、数少ない成長可能な市場と目されているのですか

ら、早い事件の背景解明と、隣国パキスタン政府との協調的な治安対策、あるいはアフガン対策

など、国際社会と一緒になって、強力に取り組んでいくことになると思われます。

(2008.11.30記)

 

 

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