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      寄稿 『インドの将来について思うこと』

                 ジェトロ、ニューデリーセンター前所長 宮原 豊(9) 

 

920日の還暦記念同期会は自分自身の誕生日の2日前ということもあって、感激も

ひとしおでした。公式行事終了後、上田の街に繰り出して夜中の2時過ぎまで飲み続け

ました。あれは何次会だったのか、最後までお付き合いいただいた西村賢治君、羽田

義久君には心から感謝申し上げます。翌朝は二日酔いで反省しながら、青木村・瀧仙寺の

堀内住職に亡父の初彼岸の供養をしてもらいました。

 

高校を卒業してから、還暦のこの年齢までアッという間でした。20歳代、30歳代、

40歳代、50歳代と、10年単位の一くくりで時代が移っていたように思います。たまたま

仕事で、30歳代にフィリピン、40歳代に米国西海岸、50歳代にインドにそれぞれ4

ほどの期間住み、国内でも熊本、仙台、横浜と移り住んだことが時間を短く感じさせて

いるようです。

 

フィリピン赴任前に新宿で送別会をしてくれた栗原剛君(9組)は35歳の若さで逝って

しまいましたが、高校時代から30歳前半まで親しくしていた栗原君が今も生きていたら

もっと楽しかっただろうと思います。

 

さて、ここで何か意味のあることを書き残すつもりもないのですが(小山雅堂君の

チャイナ・レポートのようには書けない)、最近の仕事関係でインドの近い将来について

思っていることを少し書きます。今も「遅々として進む」インドですが、インドはいつ頃に

変わるのか?独断と偏見ですが、当たるも八卦、当たらぬも八卦です。

 

インド政府が計画しているデリー・ムンバイ産業大動脈構想」によって、10年以内に

インドは大変身を遂げます。インドとしては、1991年の社会主義型混合経済から市場経済

への移行と同じくらい大きな歴史的な政策転換です。それは内需による安定的な成長路線

から、外資導入を促し日本の太平洋ベルト地帯と同様の産業ベルト地域開発と輸出振興を

図るという、インドでは今までなかった高度成長路線への転換です。80年代のアセアン・

タイ国、90年代の中国・上海市浦東地域を想像してみてください。インドでもありえない

話ではないです。

この計画は、インドを象徴するあらゆる問題の解決に結びつくものです。

高速貨物鉄道を中心にして中央政府主導による広域開発、州政府主導の民活に

よる20の工業地域開発を含むインフラ整備、製造業・輸出産業の育成に必要な

インフラ整備(新規港湾の建設やインランド・デポを整備)により、若年労働者

対策、農業従事者の雇用機会創出、デリー首都圏への集中緩和につながります。

新たな問題も生じるものの、メリットの方が明らかに大きいでしょう。

 

昨日、麻生新総裁が誕生しました。総選挙にいつ踏み切るのでしょう。日本の政治日程

にもよりますが、この秋にインド首相が訪日予定で、そこで大きな枠組みが話し合われます。

ひとつは「デリー・ムンバイ」の中核である高速貨物鉄道の機関車の仕様がはっきりして

くるのではないかと考えられ、これが電気機関車に決まれば、日本企業にとっても大きな

流れができます。また、機関車などの鉄道技術だけでなく、電力需要を賄うために原子力

発電所建設も動き出します。インドは核の最新技術と核燃料を必要としています。

 

NPT(核不拡散条約)に加盟することが平和利用における核技術協力や核燃料・資材の

輸入をする条件でしたが、米印原子力協力協定により米国は「インドは良い子」という

ダブルスタンダード政策を採ることにしました。日印間においても何らかの動きが出て

くるのでは必然ではないでしょうか。今や日本は原子力発電では世界のメインプレーヤー

です。唯一の被爆国として日本の立場は微妙です。核兵器絶滅という悲願に向けて、この際に

世界に大きなメッセージを出すべきですが、それはインドをあの不平等条約であるNPT

(核不拡散条約)に加盟するように圧力をかけるだけの内容では役に立たないでしょう。

中国が大量の核兵器を保有している限り(それもインドに隣接するチベットに多くの施設)、

インドは核兵器保有の権利を放棄しないです。NPTの核保有側の中国が「良い子」であると

考えるほど、インド人やインド政府はナイーブではありません。それほど中国は偉大なる

隣人です。だから、NGS(原子力供給国グループ)も米国の提案を受け入れたのです。

イランや北朝鮮に対するのと同じロジックで圧力をかけても解決しません。

 

ビジネス上のチャンスが目の前に広がっているとは言え、日本にとってはとりわけ難しい

パズルです。この機会にインドに条件を付けるならば、表の核保有国である5カ国(米、

中、露、英、仏)にも核兵器を削減させ、裏の保有国であるイラン、北朝鮮、イスラエル、

パキスタンにも核を放棄させるような高度な知恵が出て来なければ解決しません。今の

リーダーたちはこの問題に真剣に取り組んでいないし、うまく対処する知恵は持ち合わせて

いないように見えます。この独断が当たらないことを祈りますが、現実はどんどん進んで

行きます。中国とインドだけでもここ2030年の間に新規の原子力発電所は140ヵ所

ほど必要になってくるそうです。    (2008.9.23 記)                 

以上

  

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